「帝銀事件と日本の秘密戦」

山田 朗著

正直知りませんでした。帝銀事件。

戦後史の謎の事件の一つとされる帝銀事件は1948(昭和23)年126日、東京都豊島区の帝国銀行椎名町支店(当時)に男が現れ、「伝染病の予防薬」と称して2段階で液体を飲ませ、行員と家族計12人を殺害。現金を奪った事件です。2段階で飲ませた理由は、相手の警戒心を解くため、自身も同じ液体を1回目で飲み、2回目は自身のみ解毒剤と、その手の込んだ手口から毒物に詳しい「731部隊」など旧日本軍の元謀略部隊員らが捜査線上に浮上。捜査が進むにつれ、旧日本軍の人体実験の実態が明るみになるにつれ、占領軍の圧力で捜査方針が変更されたというもの。

この本の特徴は、タイトルで「日本の秘密戦」と謳っているだけに、戦時中の秘密戦( 毒ガス戦、細菌戦、スパイ・謀略戦)の全貌を、「捜査」というフィルターを通して明らかにしたことです。当然捜査の過程、謎解きもあるのですが、多くの捜査員の報告という形で、ベールに包まれた秘密戦の全貌が見えてきます。

陸軍習志野学校、六研、陸軍糧秣廠、731部隊、1644部隊、登戸研究所・・それはもう膨大な範囲で秘密戦は展開されていたことがわかります。

そしてなぜ占領軍が介入してきたかも書かれています。

  • 戦時中、大陸で生きた人間を、細菌や毒物の実験材料にしていた秘密部隊があった(略)米軍はその事実を知っていて、元隊員を戦犯にしないという条件と交換に、彼らに詳細なデータを書かせている。(略)「秘密部隊」の事実が露見することでの日本社会の混乱という国内問題(BC級戦犯裁判において捕虜虐待のかどで日本人が死刑に処せられている一方で、捕虜を虐殺した人々が免責されるというダブルスタンダードがまかり通ることで占領政策が動揺する)をみすえて・・

露骨なアメリカの利益優先が見て取れます。

「甲斐捜査手記」、「二つの未遂事件」、「松井名刺」、「変装」、謎解きとしても読みごたえがありました。

しかし、まぁ人体実験、秘密戦の実態もさることながら、戦後直後の捜査の進め方などもリアルに描かれており、そういった点からも興味深い本でした。